「もう結構です!」
まだ何か言いたげな顔をした販売員にそう言い残して、足早に店を去った。
最近、引っ越しをしたので新しいベッドを買おうと某家具量販店に足を運んだんだけど、そこでの販売員の対応があまりにもヒドかった。
なんでわからないんだろう?
私が欲しいのは【ベッド】そのものじゃない。
いま使っているベッドは、固くて朝起きたときに体のアチコチが痛くなるし、寝返りを打つたびにギシギシと不快な音を立てるもんだから、気が散ってなかなか眠れない。
いつも2〜3時間に1回は目が覚める。おかげで疲れが取れない。
私だってコアラのように1日22時間とまではいかなくとも、せめて最低でも1日6時間は快適に眠りたい。
そう。私が欲しいのは【快適な睡眠】なんだ。
それをなんであの販売員はわかってくれないんだ。
「このベッドはすごいんですよ〜!収納スペースが5種類もあって、バッグや衣服など大きさや形状に合わせて使い分けられるんです!それに今なら特別10%OFFのお値段となっておりまして〜…ベラベラ」
ただ一方的にベッドの機能や値段を説明するばかりで、こちらのことを一切気にもくれない。
こんな販売員から商品を買おうと思う人が、いったい全世界にどれくらいいるんだろうか。少なくとも私は「ほしい!」という気持ちは1ミリたりとも起こらなかった。
似たようなセールスマンはネット上にもたくさんいる。
「創作に半年もかかった渾身のコンテンツです!」
「10万文字超えのボリュームです!」
「特典もついてます!」
…いやいやいやいや、そこじゃないんだよと。
読者からしたら、販売者がどれだけ苦労してその商品を作ったとか、そんな話ハッキリ言ってどーでもよくて。
「その商品を買うことで自分の人生がどう良くなるのか?」
それだけだ。人間はみんな”自分”のことしか考えていない。
だから売り手は「見込み客の未来がどういい方向に変化するか?」を伝えるべきだ。
そしたら見込み客は身を乗り出してこちらの話に耳を傾けてくれる。
値段や特典の話はそのあとですればいい。
もしかしたら、こっちから「買ってください!」なんて言わずとも、彼らの方から「ぜひ売ってください!」と言ってくるかもしれない。
いや、商売人ならそれくらいできなきゃいけない。
見込み客から「買わせてください!」と言われるには、どうやって欲求を掻き立てればいいか?
難しく考えなくていい。人間には決して抗うことのできない欲求がある。
欲求は私たち人間の行動力の源泉ともいえる。ときには人を殺してしまうほどの原動力にもなる。財布を開かせることはもっと簡単だ。
その8つの欲求を紹介しよう。
①生き残り、人生を楽しみ、長生きしたい
②食べ物、飲み物を味わいたい
③恐怖、痛み、危険を免れたい
④性的に交わりたい
⑤快適に暮らしたい
⑥他人に勝り、世の中に遅れを取りたくない
⑦愛する人を気遣い、守りたい
⑧社会的に認められたい
私たちはみんな、これらのことを求めている。
想像してみてほしい。
今あなたがいるオフィスが火事になった。でも大事な取引先からの電話が鳴っている。
こんな状況に直面したとき、まさか炎に包まれながら電話を取るなんてことしないよね?
誰だって真っ先に逃げるはずだ。
あなたの大切な家族が刃物を持った男に迫られているとき、「そうだ。壁紙を買いに行こう」なんて思う?
なんとも馬鹿げた質問だ。
いくら頑張っても、人間として生まれてきた以上、これらの欲求を振り払うことはできない。
今あなたが売っている商品やサービスは、8つの欲求のうちどれを刺激しているだろうか?
たぶん一つも当てはまらないんじゃないかな。
そうじゃないなら「売れない…」なんて悩みが出てくるはずがない。
そもそも欲求ってなんだろう?
欲求っていうのは、必要なことが満たされないときに感じる一種の緊張感のこと。
例えば、お腹が空いていれば「食べたい」っていう緊張感が高まって、食欲が作動する。
固いベッドを使って腰を痛めたら、「快適に眠りたい」という緊張感が高まって、新しいベッドを買おうという欲求が作動する。
緊張→欲求→欲求を満たそうとする行動
人が行動に至るプロセスはこんな感じ。
さっき言った8つの欲求を刺激すれば、もっとも手早く、その欲求を満たそうという行動を相手に生じさせることができる。
ちなみに、8つの欲求を刺激するときは、脳内でその光景がイメージできるくらい具体的に伝えるとさらに効果的だ。
例えば、あなたの大好物がチーズケーキで、仕事終わりに食べようと考えていたとする。
黄金色の焦げ目と、ほんのり香る焼き立てのチーズの匂い、柔らかくてプルプルしているボディにフォークを刺し、ひとくち口に運んでみると、甘い香りが鼻から抜けていくのとともに、一瞬で溶けてなくなってしまった。
すると、こんなことを考えていなかった場合に比べ、あなたはさらにそのチーズケーキが食べたくなる。
もしこれが、「チーズケーキが食べたくなり、仕事終わりに食べた」と表現していたら、頭の中のスクリーンには何も映し出されず、欲求が掻き立てられなかったはずだ。
文章をよりリアルにするコツは、五感に訴えかけながら書くこと。
視覚、味覚、聴覚、嗅覚、触覚…
先ほどのチーズケーキの文章をもう一度見直してみてほしい。私がこれらの感覚にアプローチしながら書いたことがわかると思う。
文章は意識ひとつでガラッと変わる。だからこそ、「めんどうだな」なんて思わずに、細部まで意識して書いてほしい。
そうすれば、あなたの商品やサービスは今よりもっと多くの人の手にわたるはずだ。